美しいビーチや豊かな自然に恵まれたハワイですが、近年、観光客の増加に伴い、環境破壊や文化への影響が深刻化しています。
そうした中で、注目を集めているのがポノトラベラー(Pono Traveler)という新しい旅のスタイルです。この言葉は、単なる良い旅行者という意味を超え、ハワイ語のポノが持つ正しさ調和あるべき姿という深い精神性を体現しています。
ハワイが好きだから、もっと大切にしたいという気持ちを持つ方は多いでしょう。しかし、具体的に何をすればハワイに貢献できるのか、知らず知らずのうちにマナー違反をしていないかといった不安を感じることもあります。
ポノトラベラーとはこうした不安を解消し、ハワイの土地と文化に敬意を払いながら、自分自身も心から満たされる安全で責任ある旅を実現するための、明確な指針です。
この記事を読むことで、ポノトラベラーの根幹にあるハワイ語ポノの概念を深く理解し、従来の観光客から一歩踏み出し、環境と文化に貢献できる具体的な旅の仕方を学ぶことができます。次回のハワイ旅行では、このポノの精神を胸に、より豊かで意味のある滞在を実現しましょう。
目次
ポノトラベラーの根幹となるハワイ語ポノ(Pono)の意味

ポノトラベラーという言葉を理解するためには、まず、その根幹にあるハワイ語ポノ(Pono)が、ハワイの文化においてどれほど重い意味を持つかを知る必要があります。この言葉は、ハワイの人々が大切にする価値観そのものを表しています。
ポノが持つ正しさ・あるべき姿の意味
ハワイ語のポノ(Pono)は、辞書的な意味では良い正しい公平なといった言葉で訳されます。しかし、その文化的・精神的なニュアンスはより深く、自然の秩序や調和が保たれた、本来あるべき正しい状態という哲学的な意味を含んでいます。
ハワイ文化において、ポノは人間が自然や神、コミュニティとの関係性において、正しい位置にいることを指します。たとえば、ハワイの自然を敬い、ルールを守って汚さないことはポノな行動であり、逆に環境を破壊することはポノではない(ポノ・オレ)とされます。つまり、ポノトラベラーとは、ハワイの土地を借りる者として、自然や文化、地元住民との間に正しい調和をもたらす行動を選択する旅行者なのです。この深い意味を知ることで、旅の意識が大きく変わるはずです。
ポノトラベラーがマラマハワイの取り組みと共通する点
近年、ハワイ州観光局が推進しているコンセプトにマラマハワイ(Mālama Hawaiʻi)があります。マラマ(Mālama)が守る、世話をする、大切にするという意味であるのに対し、ポノ(Pono)は正しさという意味です。
この二つのコンセプトは車の両輪のような関係にあり、目指すゴールは共通しています。マラマハワイがハワイを大切にする具体的な行動(例:ビーチクリーン、植樹)に焦点を当てているのに対し、ポノトラベラーはなぜそうすべきなのかという哲学的な動機や精神性に焦点を当てています。つまり、ポノトラベラーは、ポノの精神をもってマラマハワイの活動に参加する、動機づけられた旅行者と言えるでしょう。どちらの言葉も、ハワイの美しい環境を未来世代に引き継ぐために、観光客に責任ある行動を求めている点で共通しています。
自然を守り、安全に楽しむためのポノ行動

ポノトラベラーの行動指針の中でも、最も緊急性が高く、旅行者がすぐに実践できるのが、ハワイの繊細な自然環境を守るための行動です。これらの行動は、環境保護だけでなく、結果として旅行者自身が安全に楽しむことにもつながります。
サンゴ礁を守るリーフセーフな日焼け止め
ハワイの美しいサンゴ礁は、日焼け止めに含まれる特定の化学物質によって深刻なダメージを受けています。この問題を受け、ハワイ州では2021年から、サンゴ礁に有害とされる特定の成分を含む日焼け止めの販売と流通を禁止する法律を施行しました。(出典:ハワイ州法 2021年施行)。
ポノトラベラーとして、ハワイの海を楽しむために私たちがまずすべきことは、リーフセーフ(Reef Safe)と表示された日焼け止めを選ぶことです。特に避けるべき成分は、オキシベンゾンとオクチノキサートです。これらはサンゴの白化現象や幼生へのダメージを与えることが科学的に証明されています。たとえ日本から持ち込む場合でも、これらの成分が含まれていないかを確認し、ハワイの海を守るためのポノな選択を意識しましょう。
海洋生物やハワイ固有種を観察する際のマナー
ハワイのビーチや海で、アオウミガメ(ホヌ)やハワイモンクシールなどの固有種に出会うことは、旅のハイライトの一つです。しかし、これらの海洋生物や固有種との接し方には、厳しいルールとマナーがあります。
ポノトラベラーは、海洋生物を観察することはあっても、触れない、邪魔をしないという原則を厳守します。特にウミガメやモンクシールは、ハワイ州法および連邦法で保護されており、一定の距離(通常3〜6メートル)を保つことが義務付けられています。生物との距離が近すぎると、ストレスを与えてしまい、最悪の場合、罰則の対象となる可能性があります。可愛らしいからといって近づいたり、餌を与えたりすることはポノではない行動です。これは、動物を守るだけでなく、野生動物の予測不能な行動から私たち自身の安全を守ることにもつながります。
自然保護区やトレイルの利用時に守るべきルール
ハワイの雄大な自然を満喫するためのトレッキングや観光では、自然保護区や国立公園が定めるルールを厳守することが、ポノな行動の基本となります。
トレイルを歩く際は、定められた道筋から外れないようにしてください。道を外れると、土壌の浸食や、ハワイ固有の植物を踏み荒らしてしまうリスクがあるからです。また、靴や道具に外来種の種子が付着したまま持ち込まれないよう、トレッキング前後に靴底をきれいに掃除することも、ポノトラベラーの意識です。自然の美しい石や砂、植物などを持ち帰ることも禁止されている場所が多いです。その美しさは写真に収めることで満足し、元の自然のままの状態を維持することを心がけましょう。
文化と地域経済に貢献するポノな旅の選び方

ポノトラベラーの精神は環境保全に留まらず、ハワイの文化的な側面や地元コミュニティの持続可能性にも深く関わっています。旅を通じてハワイの心に寄り添い、地域経済に貢献する選択をすることもポノな行動です。
地元資本の店やレストランを選ぶハワイバイイング
旅の費用をどこで使うかという選択は地元経済への貢献度に直結します。ポノトラベラーとして意識したいのが、ハワイバイイング(Hawaii Buying)の精神です。これは可能な限りハワイ地元資本の店やレストラン、ツアー会社を選ぶという行動です。
地元資本の店を選ぶことで旅費がハワイのコミュニティ内で循環し、ローカルビジネスの雇用や維持に直接役立ちます。具体的には大手のチェーン店だけでなく、ファーマーズマーケットの小さな屋台、家族経営のレストラン、地元アーティストのギャラリーなどで買い物を楽しんでみてください。
店員さんとの会話を通じて、ハワイの文化や暮らしに触れることができ、旅の思い出もより豊かで深みのあるものになるでしょう。
伝統文化体験を通じて敬意を示すマナー
フラダンスやルアウ(伝統的な宴会)といったハワイの伝統文化を体験する際は、単なるエンターテイメントとして消費しないという敬意の姿勢がポノトラベラーには求められます。
伝統文化を鑑賞する際は、写真撮影の可否や、出演者への声かけなど、主催者が定めるマナーを必ず守りましょう。特に、神聖な場所(ヘイアウなど)や、文化的な儀式に立ち会う機会があれば、地元住民の指導に従い、静かに、謙虚な気持ちで参加することが重要です。
伝統を体験することは、ハワイの歴史を学び、文化を尊重することに繋がります。これは、地元コミュニティとの間にポノな関係を築くための大切なステップです。
観光客としてハワイの歴史や文化を学ぶ重要性
ポノトラベラーになるための第一歩は、ハワイの歴史と文化を学ぶことです。なぜハワイの人々が土地(アヒ)や海(カイ)を神聖なものとして捉えるのか、その背景にある精神性を理解することが、責任ある行動の動機付けになります。
例えば、オアフ島の観光地であるダイヤモンドヘッド(Le’ahi)やマウナケア山などが、ハワイ先住民にとってどのような歴史的・文化的な意味を持つのかを知るだけでも、その場所での振る舞いが変わってきます。事前に本を読んだり、ドキュメンタリーを見たり、現地の博物館を訪れたりして、ハワイの多層的な側面を理解する努力をすることで、旅の視点が変わり、より深い感動を得ることができるでしょう。
旅行者が知っておきたいハワイの法律と環境ルール

ポノトラベラーは、知らなかったでは済まされない、ハワイ州が定めた環境保護に関する法律についても意識を持つ必要があります。これらのルールは、ハワイの美しさを守るための、地元住民との約束事です。
ハワイ州が定める海洋生物保護法と罰則
前述した通り、ハワイではアオウミガメ(ホヌ)やハワイモンクシールなどの海洋生物が厳重に保護されています。ハワイ州が定める海洋生物保護法では、これらの生物に触れたり、餌を与えたり、一定距離以内に近づいたりすることを固く禁じています。
この法律に違反した場合、非常に重い罰則が科せられます。特にウミガメやモンクシールの場合、連邦法(絶滅危惧種法)も適用されるため、数万ドル(数百万円)に及ぶ罰金や、懲役刑が科される可能性があります。(出典:NOAA Fisheriesなどより)。ビーチでウミガメを見かけても、近づきすぎず、遠くから静かに見守ることが、ポノトラベラーとして求められる最低限かつ最も重要な行動です。
ビーチや国立公園の持ち出し・持ち込み禁止ルール
ビーチや国立公園の美しさを維持するために、持ち出し・持ち込みが禁止されているアイテムがあります。
特に、砂や石、貝殻といった自然物をビーチから持ち帰ることは、多くの場所で禁止されています。これは、ハワイの土地を神聖なものとする文化的背景と、自然の生態系を守るための環境保護の観点からです。また、国立公園などのトレイルでは、外来種の侵入を防ぐため、特定の植物や種子の持ち込みも規制されています。規制区域には必ず看板が立っていますので、ルールを読み飛ばさずに確認し、ハワイの自然をそのままの姿で残す努力をしましょう。
環境活動を通じて観光客が地域に貢献できる方法
ポノトラベラーは、観光客という立場を利用して、ハワイの地域社会にポジティブな影響を与えることができます。それは、お金を落とすことだけでなく、時間と労力を提供することです。
ハワイには、ビーチクリーンアップや植樹活動、国立公園のメンテナンスなど、観光客が参加できるボランティアプログラムが多数存在します。たとえば、旅行のスケジュールの中に数時間でもこれらの活動を組み込むことで、ハワイの環境保全に直接貢献できます。このようなボランティア・ツーリズムに参加することは、地元住民との交流の機会となり、旅の体験に深い意味と満足感を与えてくれるでしょう。ハワイ州観光局のウェブサイトなどで、マラマハワイ・プログラムに協賛しているホテルやツアーをチェックしてみてください。
よくある質問
ポノトラベラー、そして責任あるハワイ旅行に関して、よく寄せられる疑問にお答えします。
Q1. ポノとマラマはどこが違いますか
ポノは正しさ、あるべき姿、調和という哲学や規範を指し、マラマは守る、世話をするという具体的な行動や実践を指します。ポノトラベラーは、ポノという正しい精神をもって、マラマという具体的な行動を実行する旅行者だと理解すると分かりやすいです。
Q2. ポノトラベラーとして宿泊すべきホテルはありますか
ポノトラベラーを体現する宿泊施設としては、マラマハワイ・プログラムに協賛しているホテルを選ぶのが最も確実です。これらのホテルは、プラスチック削減に取り組んだり、滞在中にボランティア活動に参加した旅行者に特典を提供したりしています。また、地元資本の小規模なホテルやB&Bを選ぶことも、ポノな消費行動の一つです。
Q3. ハワイでポノという言葉は日常会話でどのように使われますか
ポノ(Pono)は、日常会話でも非常に多用されます。たとえば、それは正しいねその通りだという意味でPono!と使ったり、それは正しいことだという意味でHe mea ponoと使ったりします。また、何かを決断する際にIs that pono? (それは正しい/公平なことか?)というように、倫理的な判断を問う際にも使われる、非常に重要な言葉です。
まとめ
ポノトラベラー(Pono Traveler)とは、ハワイ語のポノ(Pono)(正しさ、あるべき姿)という深い哲学に基づき、環境、文化、地域経済に対して責任ある行動を選択する旅行者を指します。
このスタイルを実践するには、サンゴ礁に有害な日焼け止めの使用を避け、海洋生物との適切な距離を保つなど、安全と環境保全を両立させることが求められます。また、地元資本の店を選び、ハワイの歴史を学ぶこともポノな行動です。ポノトラベラーになることは、ハワイの未来を守ると同時に、自分自身の旅の満足度を最高に高めることにつながります。