ハワイといえば、鮮やかな衣装をまとったダンサーが優雅に踊る「フラ」の光景を思い浮かべる方が多いでしょう。
しかし、その背景には「メレ」という重要な文化要素が存在します。
メレは歌や詠唱の形で物語や歴史を伝え、フラはそれを身体で表現します。
この二つは切っても切れない関係にあり、ハワイの歴史・信仰・自然観を象徴しています。
この記事ではメレとフラの定義から歴史、現代までを体系的にひもとき、知識ゼロの方でも深く理解できるように解説します。
目次
メレとは
メレは単なる音楽用語ではなく、ハワイ文化において詩や物語を伝える重要な媒体です。
古代から続く口承文化の中で歴史や神話、自然への賛美を形にしてきました。
現代ではフラの伴奏や独立した音楽作品としても広く親しまれています。
メレの語源
「メレ(mele)」はハワイ語で「歌」「詠唱」「詩」を意味します。
その語源はポリネシア諸語にさかのぼり、同じ文化圏で「歌」や「物語」を表す言葉と共通しています。
文字を持たなかった古代ハワイでは、言葉を旋律やリズムに乗せて残すことが記録手段の役割を果たしました。
メレの意味
メレは単なる娯楽ではなく祈りや歴史の伝承、特定の人物や出来事を讃えるために用いられます。
祝い事や葬儀、戦勝の記録など人生の節目ごとに歌われ、歌詞には深い象徴や比喩が込められます。
たとえば、山や海を指す言葉が実際には愛する人や王を象徴する場合もあります。
メレと詠唱・音楽の関係
メレには旋律を伴わない詠唱形式(メレ・オリ)と、音楽として演奏される形式(メレ・フラ)が存在します。
詠唱は神聖な儀式で使われることが多く、音楽的メレは舞台や祭りなど広く一般に親しまれます。
いずれも言葉の意味とリズムが密接に結びついており、歌詞の解釈力が重要です。
フラとメレの関係
フラとメレは切り離して語ることができないほど密接な関係にあります。
メレは物語や感情を「言葉」と「旋律」で伝え、フラはそれを「身体の動き」で可視化します。
両者がそろって初めて、ハワイ文化の全体像が表現されると言っても過言ではありません。
フラの起源
フラの起源は古代ハワイの宗教儀式にさかのぼります。
神話によれば、フラは女神ラカやヒイアカによって創始され、神々への祈りや感謝を表すために踊られたとされます。
初期のフラは神殿(ヘイアウ)での儀式や王族の行事で披露され、踊り手は神官や選ばれた人物だけでした。
振付は自然や神話を象徴する動きで構成され、波を表す手の動きや、花を表す指先の形など、ひとつひとつに意味があります。
これらの動きはすべてメレの歌詞と直接的にリンクし、物語の進行に沿って構成されていました。
踊り手は単に動きを覚えるだけでなく、歌詞の意味や歴史背景まで深く理解することが必須だったのです。
メレがフラに与える影響
フラの振付・テンポ・雰囲気は、メレの内容によって大きく左右されます。
例えば、戦いの勝利を讃えるメレでは、力強く速い動きと力感のある足踏み(カホロ)が多用されます。
一方、愛や自然を歌うメレでは、柔らかく滑らかな手の動きやしなやかな腰の揺れが中心となります。
また、フラには大きく分けて「フラ・カヒコ(古典フラ)」と「フラ・アウアナ(現代フラ)」があり、どちらもメレとの関係性が異なります。
フラ・カヒコは太鼓や詠唱(メレ・オリ)を伴い、厳密な型と構造を守ります。
一方、フラ・アウアナはギターやウクレレを使ったメレ・フラとともに踊られ、より自由で現代的な演出が可能です。
こうしてメレは、フラのジャンルや演出方向を決定づける“設計図”の役割を果たしてきました。
フラとメレの現代的な融合
現代のハワイでは、フラとメレの関係はさらに多様化しています。
たとえば、観光地のホテルショーでは伝統的なフラと現代的な音楽を組み合わせるパフォーマンスが行われます。
メリーモナーク・フェスティバルなどの大会では、参加チームが独自に選んだメレを解釈し、振付や衣装で独自の世界観を表現します。
さらに国際的なフラ教室(フラ・ハラウ)では、メレのハワイ語歌詞を学び、その意味を理解してから踊る指導法が主流です。
これにより踊り手は表面的な動きだけでなく、感情や語性を伴った演技ができるようになります。
現代音楽や他文化の舞踊と融合したパフォーマンスも登場しており、フラとメレは伝統を守りながらも進化を続けています。
古代ハワイ社会におけるメレ
古代ハワイでは文字による記録が存在しなかったため、出来事や系譜、土地の由来、神話はすべてメレとして語り継がれました。
たとえば、王族の即位式や戦勝の報告、航海の記録なども、特定の詠唱者(カフナと呼ばれる神官や、宮廷付きの詠唱士)が作詞・暗唱しました。
メレには厳密な構造とリズムがあり、言葉の抑揚や間の取り方にも決まりがあったため、学ぶには長年の修行が必要でした。
また、海や山など自然の描写はそのまま神々や人々を象徴する暗喩として使われ、聴く者は背景を理解してこそ意味を正しく解釈できました。
こうしてメレは単なる音楽ではなく“記録媒体”であり、社会的信用を持つ文化装置として機能していたのです。
西洋文化の影響と変化
18〜19世紀に入り、西洋の船乗りや宣教師がハワイ諸島に訪れるとメレのあり方も大きく変わりました。
宣教師はキリスト教的価値観に基づき、一部の宗教儀式やフラを伴うメレを禁止しました。これにより、神話や王族儀礼に関するメレは一時的に衰退します。
しかし同時に、アルファベットによるハワイ語表記が導入され、メレが紙に記録されるようになりました。
これは口承だけでは残せなかった長大な歌詞や、地域ごとのバリエーションを保存する大きな契機となります。
また、西洋楽器の導入により、従来の太鼓や石製打楽器だけでなく、ギターやウクレレを伴奏に使った新しいメレの形も生まれました。
結果として、伝統と革新が混在する多様なメレ文化が形成されたのです。
現代における保存と継承
20世紀後半からは、ハワイアン・ルネッサンスと呼ばれる文化復興運動が盛んになり、失われかけていた古典メレの再評価と継承が進みました。
たとえば、ハワイ大学のハワイ学科では古典メレの分析や録音資料の保存が行われ、地域のフラハラウ(フラ教室)では踊りとともに歌詞の意味や歴史背景まで学ぶ教育が行われています。
また、毎年春に開催される「メリーモナーク・フェスティバル」では、競技フラとともに伝統的なメレが披露され世界中の観客がその魅力に触れています。
さらに、SpotifyやYouTubeなどの配信サービスを通じて、過去の録音や新作メレが世界に発信されるようになり、距離や言語の壁を越えて広く共有される時代となりました。
こうして、メレは古代の口承文化から現代の国際舞台まで、生きた芸術として進化し続けています。
よくある質問
Q1. メレとフラはどちらが先に生まれたのか
メレが先に誕生しました。古代では物語や歴史を口承で伝えるためにメレが歌われ、後にその内容を踊りで表現するフラが発展しました。
Q2. メレには楽器が必ず必要なのか
必須ではありません。無伴奏で詠唱される「メレ・オリ」も伝統的形式のひとつであり、むしろ神聖な儀式では楽器を使わないことが多いです。
Q3. メレは誰でも作れるのか
現代では誰でも創作可能ですが、伝統形式のメレは言語や文化に深く精通した人が作るのが一般的です。
まとめ
メレはハワイ文化の中核をなす歌や詠唱であり、フラはそれを視覚的に表現する踊りです。
両者の関係を理解することで、単なる観光としてではなく、文化そのものを味わえるようになります。
次にハワイを訪れる際は、ぜひ歌詞や踊りの背景にも目を向けてみてください。